テスコ、それは1948-1985年まで存在していた楽器ブランド。
1960年代のエレキブーム(私ももちろん生まれてない)、GSブームに沸いた日本では大変な人気を集めたブランドだったようです。
加山雄三の若大将シリーズ、「エレキの若大将」にも数多くのテスコ製品が登場しています。
私が25歳、今から15年以上前の話です。
夏の終わり、或いは秋の訪れとでも言いましょうか、日中の蒸し暑さが夕刻になると幾分過ごしやすいそよ風が吹く、そんな季節を想像して下さい。
その日は朝からバンドメンバー、全員気合入りまくりでした。
なんでも、大阪のサウスサイド(南部)にあるライブハウスと地元のケーブルテレビ局とのタイアップ企画で、元気のあるバンドを紹介するというテレビ番組があり、幾つかのバンドが招集された中に我々のバンドも入っていました。
大阪は堺に限定したローカルとは言えテレビに映る、これは関西人にとっては血沸き肉踊るイベントなのです。
しかしほぼ一日拘束。朝10時に集合し軽い説明会の後、逆リハと呼ばれる、リハーサルを本番の逆の順から行ってゆくものを終えた後、比較的後ろの出演であった我々は昼前には一旦開放され、夕方18時の開場まで特にする事が無い。
他のバンドのリハをしばらく見ていましたが、これも飽きてしまうまでにはさほど時間もかかりませんでした。
私は近所の探検(散策)に出かける事にしました。
ふらふらと初めての街並みを楽しんでいるとそこに楽器屋さんが!
知らない街を知るには、そこの美味しい楽器屋さんに行け。とは良く言ったもので、私は先人の格言に従うように店の中へ。
”マスター、やってる?”
とは言いませんでしたが(もちろん暖簾もない)、いつも見ている楽器屋さんとは全く異なる品揃え。
アルバイト定員と思しきお兄ちゃんと会話している中で、かなり意気投合。
エヴィメタ風(この言い回しちょっと古いね)の風貌には似つかわしく無く意外にもストレートロックやブルーズなど私と似たジャンルの音楽への造詣も深く、古くからの友人と久しぶりにあったような錯覚を覚えました。
ふと見ると、ひときわ異彩を放つビビットイエローのギター1本。
「なんすか?これ?」と私。
「あぁ、テスコね。珍しいでしょ? 最近、復刻モデルが出たんですよ。」と兄ちゃん。
「へぇ。 で、なんぼすんの?」
「ん?えーっとこれはですね、、、、あー、、と、15万円ですね。定価。」
「たっけぇー。 そないにエエ音すんの?」
「うーん、好みで分かれると思いますけど、まぁGSマニアにはたまらんでしょうね。」
「ちょ、ちょっとだけ弾かしてもらえん?」
「あ、ええですよ。」
ジャーン、ガガーン、シャリシャリーン。。。
「どないです?」と店員
「うーん。。。」
(なんじゃ、このショボイ音は?)
「独特のサウンドですよね?」と店員。
(もしかして、これは裸の王様なのか?ちゃんとしたギターの神様とか、そのしもべとか、そんなギタリストやったら、この良さが解るんか? 俺には全く判らんという事は、おれはそのギターの申し子やないのか? いや、それは言い過ぎた。そんな域まで達してもなかった。ちょっと背伸びしすぎた、、、にしても、この音、どない考えてもショボイ、これに15万はよー出せん。。)
「いかがですか?」 と俺の感想を促す店員。
(試されてるのか? 俺は果たして方舟に乗るに値するギタリストなのか否か? うーん、これは迂闊には答えられん。どーする。なんて答えたらええねん!?)
「ゆーても、これマニア向けなんで音的には正直エエ音やとは言い難いですよね」
「そーやろ!そーそぉ。俺もそない思てたんや。ちょっとショボすぎやねぇ。」(ほっと胸を撫で下ろしつつ、、、)
「そーそー。しかもこのセミアコのボディー素材、マホガニーなんですけど、どーみてもベニヤ板ですもんね。」
どれどれ?確かに言われてみれば、fホールから中を覗いて見た木目はホームセンター等でよく見かける模様。
「でも、見た目は最高でしょ?お部屋に飾るとグッとくるはずですよ。」
ほう、インテリアとしてのギターか。考えたこと無かったな。
確かに、このビビットなイエロー、そしてエキセントリックなボディー形状。言われてみれば「アート」や!
「確かにね。お値段次第なら考えてみても良いがね? で、なんぼなん?」
兄ちゃんの眼光がギラリと光る。
よく聞くとその兄ちゃんは楽器屋さんの共同オーナーであり、相談には最大限応じますよ、と言いながら椅子に座り直し、こちらを正視。
(出来るな、コイツ。。。)
先手必勝とばかりに、私はカウンターにあった電卓をつかみとり、3万円と素早く打ち込み、「こんな感じかな?」
「またまた~、冗談はよし子さん!」
さっと私の手から電卓を奪い取り、兄ちゃんが打ち込み済の電卓を滑り寄越してきた。見ると、10万円。
15万定価をあっさり5万も引いてきた。おそらくこのTEISCO、不良在庫の憂き目にあるな。せやったら勝機はこちらにある。どう考えても5万以下にはならんやろう。そう睨んだ私は一挙に陥落に向かう。
「分かった、駆け引きなしで行こ! 4万円。これにケースとスタンドをつけとくれ。」
うーん。。
(お、効いとる効いとる。これは行けた。そう確信した私は自らのWalk-awayを5万円に設定し、交渉を進めた。さっきの「ベニヤ板」これも使える。)
なぜ、これが4万円の価値しかないのか?を冷静に、しかしかなり強引に相手に伝えた。
人は交渉にかけた時間を「投資」と捉える傾向がある。
せっかくここまで来たのだから、なんとかまとめたい、と必要以上に譲歩してしまう事が良くあります。私はこれを利用しました。
幸い、本番まで十分に時間はある。すべての環境要因が私に味方していました。
私は2度「話にならない!では、これにて交渉終了」と席を立ちましたが、そのたびに呼び止められ、ほぼ私のペースで交渉は進みました。
電卓弾き合いの結末は、49,000円、税込み、ケース付き。
見知らぬ土地で思いがけない出会い。
交渉の結果に大変満足し、ウキウキ気分でバンドメンバーと合流し、自慢の一品を見せましたが、一言、
「おまえ、それホンマに要るんか?」
確かに、どうしても必要なモノか?と問われれば、別に無くとも私の生活に大きな変化は無い。お部屋に飾ろうにも、部屋弾きギターは先日ムスタングを購入したばかり。またセミアコ構造のため、中途半端に生音がデカイ。夜中に弾くにはちょっと気が引ける音量。
メンバーの意見は正しかった。家で弾く機会も殆ど無く、ましてやアンプに繋いでライブで使う事なども無い。
俺はまたまた「安物買いの銭失い」をしてしまったのだろうか?
当時お付き合いしていた女性からも、ただでさえギターばっかり持っている私に辟易していたのでしょう。
そんなにギター好きやったら、ギターと結婚したらエエのんちゃう?
たまにはどっか旅行にでも連れて行って欲しいわぁ。と言われる始末。
また一つ、ブルーズが心の底から理解できた。1995年の僕の秋はそんな秋でした。




